言葉巧みな営業マンに「今週中に決断すれば30%割引します」なんて言われると、今必要ではなくてもサインしてしまったという経験はないですか? 買うタイミングの見極めについて、有名テーマパークを例に考えます。

人気テーマパークに学ぶ! 絶妙な設備投資のタイミングとは?

「パパ、 また今度もTDRに連れてってね!」
「ああ、いいよ、また来ようね」
後ろの座席で興奮冷めやまぬ娘の声に笑顔で応えながら、オオイシ院長は車のキーを回した。
今日は久しぶりの家族との休日。院長は、以前から娘にせがまれていたTDRに家族で遊びに来ていた。

1日明けてコンサルタントの和仁との面談日。院長は昨日疑問に感じたことを持ちかけた。

「昨日久しぶりにTDRに行ったのですが、ランドとシーのほかにホテルや商業施設も出来て、どんどん大きくなっていて、びっくりしました。あれだけ設備投資をしていて、なぜちゃんとお金が回っていくのでしょうね?」

和仁はうなずきながら答えた。
「あそこが成功している理由はいくつかあるようですが、1つ歯科医院においても応用できる秘訣があると思いますよ」

「え、医院にも当てはまる秘訣? なんですか、それは?」

和仁はコップの水を一気に飲みほして話し始めた。

「それは、設備投資のタイミングです。セミナーで受講者からお聞きすると、多くの歯科医院が設備投資で失敗して後悔されています。オオイシ院長のまわりにも、いませんか?」

自分にも心当たりがある院長は、一瞬ギクリとしながら平静を取り戻して答えた。」

(汗)たしかに、そういう声はよく聞きますよ。あとになって『余計なモノを買うんじゃなかった』とか、『買うのを急いでしまった』とか。でも仕方がない面もあるんですよね。言葉巧みな営業マンに、『今週中に決断すれば、30%をサービスします』なんて言われると、つい急がないとって思っちゃうみたいです」

「そうですよね、買うかどうか、もありますが、買うタイミングをきちんと見極めることが大切だと思います。TDRがすばらしいのは、はじめから今の規模ではなかった点です」

「あぁ、たしかにシーやホテルや商業施設はあとから出来ていますね」

「そう、そしてパーク内のアトラクション自体も後から追加されて増え続けています。つまり当初から最大の入場者数を想定し、そこから逆算してはじめは少なめのキャパシティでスタートしているんです。そして来場者数が増えるに従って、器を大きくしていく。だから、最小限の投資で済むし、余計な休眠施設をつくらずに済みますよね」

「なるほど。でも、それが歯科医院でどう応用できるのでしょうか?」

「たとえば、歯科医院で来院者数に直接影響するのは、チェア台数ですよね。新規開業する方は、何台のチェアから始めるか、本当はもっとよく考えたほうがいい。『知人が3台でスタートするから』とか『ディーラーに勧められたから』ということではなく、1日の患者数の受け入れ数が1年目、2年目、3年目に何人かをおおざっぱにでも想定すると、また違った判断になると思いませんか?」
「たしかに、ウチの場合も、開業1年後は1日10人、2年後で13人、3年後で19人、4年後になってやっと3台のチェアが一杯に埋まって予約が1週間以上埋まる状態になりました。ということは、はじめの2年半ぐらいは、2台のチェアで十分だったということになるのか……」

「そうです。結果論ではありますけどね。そして、4台目のチェアを増設するかどうかは、4年目以降、すぐ買うのか、それとももう少し待つのかは、今後の患者数の増減の見込みを踏まえての経営者判断となります。まあ、オオイシ院長の場合は、紹介で増え続ける患者さんにちゃんと対応しようということで、チェアの導入を決断されましたよね。それはそれでOKだと思います。

問題は、本当に必要なタイミングよりも早過ぎて、設備を片隅で眠らせて老朽化させてしまうことです。営業マンに煽られることもあるのでしょうが、多くの人が焦って早く買おうとします。でも設備を眠らせるのは、3つの意味で賞味期限を食いつぶすことになるんです。

1つは実質的な機能が陳腐化して使えなくなること。2つ目は機能は使えても使い心地や流行面で陳腐化して使えなくなること。3つ目は、新しいモノ好きな人に多いのですが、飽きてしまって新しいモノが欲しくなること。その上、貴重な資金を眠らせることにもなって、効率が悪いんです。思い当たることはありますか?」

新しいモノ好きと指摘されて、オオイシ院長は冷や汗をかきながらもつぶやいた。

「う〜ん、たしかにあるかも知れませんね」
(そうか、買うタイミングを間違えることは、目に見えないところで損になるのだな)

最後にコンサルタントは念押しをした。
「逆にキャッシュフローの観点からは、今すぐ買ってもいいものもあります。それは、それを買うことですぐに収入アップが見込めるものです。たとえば‘すでに予約待ちの行列状態のときに導入する新しいチェア、医院の魅力がちゃんと伝わり新規の患者さんを呼び込む力のあるホームページ、そして患者さんに情報開示して健康観を高めるDental X[R]のようなコミュニケーション・ツールなどです」

「なるほど…… 」院長はうなずいた。そして、「買うか、買わないか」という判断基準に加えて、「いつ買うとべストか?」という判断基準を持とうと心に決めたのだった。

今回のレッスン

今、 この設備投資をした場合、実質的な賞味期限で、 元を取れるだろうか? せっかく買うなら、 それをフル稼働させるベストなタイミングを考えよう。