なぜ、丁寧な治療説明だけでは「自費」が選ばれないのか
「詳しく説明したのに、結局保険診療を選ばれてしまった」 「自費のメリットを伝えても、患者さんの反応が薄い」
多くの先生方がこの壁に直面しています。今の患者さんは、ネット上の膨大な情報(口コミ、価格比較、恐怖心を煽る記事)に晒されており、歯科医院に対して「本当にこの治療が必要なのか?」「高く売りつけられるのではないか?」という無意識の警戒心を抱いています。

もし先生が同じ悩みを抱えているなら、必要なのは「セールストークの技術」ではありません。 伝説のマーケター、ジェイ・エイブラハム(※注)が提唱する「顧客(患者)教育」というアプローチこそが、医療現場の信頼関係を変える鍵となります。
売り込み(セールス)をやめ、患者さんを「教育」する。一見遠回りに見えるこの方法が、なぜ医院の収益と患者満足度を同時に高めるのか、その本質を解説します。

目次
1)歯科医師の役割は「治療者」であり、「教育者」である
2)コンビニより多い歯科医院の中で、「教育」が最強の差別化になる
3)「スペック(情報)」ではなく、「物語(知識)」を語る
4)あえて「リスク」を教える勇気が、絶対的な信頼を生む

1)歯科医師の役割は「治療者」であり、「教育者」である

多くの先生はご自身を「治療のプロ」と認識されていますが、ジェイ・エイブラハムの哲学を借りれば、もう一つの重要な役割があります。それは「アドバイザーであり、教育者である」という役割です。自費診療の提案において、自分を「治療を売る側」と認識してしまうと、無意識に患者さんとの間に「売り手 vs 買い手」の壁が生まれます。 しかし、スタンスをこう変えてみてください。

「私たちは、あなたがご自身の歯の未来について完全に理解し、納得するまで、治療費のかかる提案は一切いたしません」

この姿勢を見せた瞬間、商談のような空気は消え、診療室は「協力的なコンサルテーションの場」へと変わります。 「教育者」としてのアプローチは、警戒心を解き、患者さんを「共に治療計画を考えるパートナー」へと引き上げます。これこそが、質の高い自費診療を受け入れてもらうための土台となります。

2)コンビニより多い歯科医院の中で、「教育」が最強の差別化になる

インプラント、矯正、セラミック。 いまや、どの医院でも同じようなメニューが提供されています。技術的な差別化はプロには分かりますが、患者さんにはその違いが見えません。コモディティ化(均質化)した歯科業界において、最も強力な差別化要因となるのが「患者体験」であり、それを支配するのが「教育」です。たとえ扱っているインプラント体が他院と同じでも、先生が以下のことを誰よりも分かりやすく教えてくれる存在だとしたらどうでしょうか?

「後悔しないインプラントの選び方」

「なぜ、その治療法が10年後の残存歯数に影響するのか」

「ネット情報には書かれていない、正しい判断基準」

その瞬間、先生は単なる「近所の歯医者さん」から、患者さんの人生における「信頼できる健康のガイド」へと昇格します。 ただ治療法を提示するのではなく、患者さんが意思決定をするための「判断基準」そのものを教えてあげること。これが、価格競争に巻き込まれない唯一の方法です。

3)「スペック(情報)」ではなく、「物語(知識)」を語る

「このクラウンはジルコニア製で、強度が〇〇MPaあります」 これは単なる「情報」です。患者さんには「硬い白い歯」という事実しか伝わらず、保険の白い歯との価格差(価値)が理解できません。

一方、「物語(知識)」とは、その情報に意味や背景(コンテクスト)を与えることです。製品に命を吹き込むのです。

例えば、ジルコニアを提案する場合、次のように語ればどうでしょうか。
「この素材は、人工関節にも使われるほど体に優しく、耐久性のあるものです。 実は、天然の歯のような透明感を出すために、技工士が顕微鏡を使いながら何層にも色を重ねて手作業で作っています。 だからこそ、笑った時に誰にも『作り物』だと気づかれませんし、表面が滑らかなので汚れがつきにくく、将来的な歯周病のリスクも下げてくれるんです」

このストーリー(知識)は、単なる「白い被せ物」を、「将来の健康を守るための工芸品」へと昇華させます。 この深い理解を得た患者さんは、もはや「値段が高いか安いか」だけでは判断しなくなります。「自分にとって価値があるか」で判断してくれるようになるのです。

4)あえて「リスク」を教える勇気が、絶対的な信頼を生む

ジェイ・エイブラハムは、教育ベースのマーケティングの本質を「短期的な利益(快楽)を後回しにすること」*と定義しています。これを歯科に置き換えると、「今すぐ自費を決めてもらうこと」よりも、「患者さんからの全面的な信頼を得ること」を最優先する姿勢です。かつて彼が指導した貴金属ブローカーは、「金を買ってください」と煽るのではなく、「投資する前に、リスクを含めて教育させてください」というスタンスを取り、競合の5倍の売上を叩き出しました。歯科でも同じことが言えます。メリットばかりを並べるのではなく、あえてプロとしてネガティブな側面も教育してください。

「この治療にはこういうリスクがあります」

「あなたの今の状態なら、まだ高額な治療は必要ないかもしれません」

「メンテナンスに通えないなら、この治療はおすすめしません」

「良いことばかりを言う先生ではない」という透明性こそが、絶対的な信頼の証となります。 結果として、「先生がそこまで言うなら、先生にお任せしたい」という、長期的なロイヤルカスタマー(ファン患者)が生まれるのです。

今回のレッスン

今日、先生は患者さんに何を「教え」ますか?
これからの歯科医院経営において、売上を伸ばす鍵は「どうやって自費を勧めるか(How to sell)」ではなく、「何を教えられるか(What to educate)」にあります。

勝並 進

CFP®︎・1級ファイナンシャルプランニング技能士

大学卒業後、三井住友海上入社。その後、社内F A制度でグループの三井住友海上あいおい生命に出向し、保険代理店の経営支援として、マーケティング、営業戦略、人材育成に従事。
18年連続で大手住宅メーカーの全国のグループ会社での保険契約獲得数1位を続ける仕組みを構築するなどの新規開拓の仕組みの実績を作った後、全社での企画・推進を担当。自ら企画した新規開拓のスキームが2年連続で会社新記録を更新するなど、新規開拓の仕組みづくりのプロフェッショナルとしての実績を挙げている。
現在は、これまでの経験を活かして、副業でのコンサルティングも開始。
地方の中小企業7社で経営計画やマーケティング、組織活性化・人材育成、DX支援実績がある。2024年プロフェッショナルアワード(個人賞)を受賞。

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